
「ふぅん、じゃあこれが今のがトキヤの心の音なんだ。良い音色だね」
「…そういう恥ずかしいことを堂々と言うのはやめなさい…まったく…」
そうやり取りしたのは先程、セシルが持って来ていたアグナパレスの楽器を、それぞれ得意楽器を交換してセッションした時のこと。
音也がヴァイオリン、真斗はギター、翔がサックス、レンがフルート、トキヤがピアノで、那月はドラムだった。
「後でやったトキヤのドラムも思ったより激しかったよ。かっこよかった!本当にトキヤ何でも演奏できるんだね!」
廊下を歩きながら上機嫌な音也に、もう一度同じセリフを吐きたくなる。
どうしてこの男は臆面もなく笑顔全開でこんなことが言えるのだろう。
いつも褒められているはずなのに、いたたまれなくなる。顔が赤くなるのがつらい。
「今度またトキヤのピアノ聞かせてよ」
「言ったでしょう。ピアノをやっていたのは小さい頃なのでレパートリーはあんなものです」
「いいんだよ、何回聞いても。凄く綺麗だったもん、トキヤの心の音」
「…っ」
至近距離で見つめられて言われると、視線を反らすしか出来ない。そうさせているのは音也だというのに、視線だけ何とか向ければこの能天気な男はどうしてこっち見ないの?という顔をしている。全く恐ろしい。
「それにしてもアグナパレス?だっけ、セシルの国の楽器ってすごいね。やっぱり響きが違うもん。製法にどんな秘密があるんだろう、引く人によって確かに音色が変わるんだ」
それはトキヤも感心していた。音を取る時にしかそうそう引かなくなっていたピアノなのに、あれだけ響くとは思わなかった。
「那月のドラムは眼鏡が外れた時と外れていない時、全然違ったしね。レンが砂月と普通に会話出来てたことにもびっくりしたなあ。ねえねえ、トキヤ!俺の音はどうだった?ヴァイオリン、初めてだったから全然うまくないけどやっぱり俺の心の音になれてた?」
一人でどんどん変わる話題に呆れていれば、いつの間にか質問がこちらに来ていた。
ねえ、トキヤも一緒に雪合戦しようよ!ほら翔たちが場所取ってくれてる。雪玉作って待ってるってって、あー!あれ那月が今握ってたよね?やばい、絶対硬いよ、ガラス玉みたいになってる気がするから右の方に詰んである雪玉は投げるの禁止ね?当たるとやばいから、と、あれよあれよと完全にトキヤは参加することになっており、右手引かれて中庭にいたりする。
いつもなら音也の質問は、音也自身が答えるので放っておいても良いというか、答えても意味がない。
しかし、今は餌を待つ犬のように、トキヤを見つめたまま動かない。視線を外そうとするのもダメ、という面持で気付けば廊下の壁にまで背中が当たっていた。
「…まだまだな音色でしたよ、ヴァイオリンももちろん、後で弾いたギターも」
努めて冷静に返せば、音也は口を尖らせた。
「それは知ってるよー。どうせ俺の演奏は荒削りだっていうんでしょ。それでもすっげー楽しかった!そういうの、ちゃんと出てた?トキヤの音色みたいに、綺麗な心の音になってた?」
もう一度聞かれてしまえば、逃げられない。
「…言ったでしょう。そういう恥ずかしいことを堂々と言うのは…」
壁に追い詰められた格好ながらせめてもの抵抗と、瞳閉じて説教を始めようとした。
だが、音也もむっとしたようで、途中で遮って文句を言ってくる。
「トキヤだって、演技では恥ずかしいこといっぱい言うじゃん。おはやっほーとか、みーんな大好きだにゃ、とか」
「な…っ」
あれを恥ずかしいというなんて。
確かに軽薄でトキヤ自身も演技で作ったキャラと割り切らなければ出来ていないが、よりによって素で恥ずかしい音也に声真似されてまで言われると、さすがに腹立たしい。
「ほう、なら演技でならいくらでも言ってあげますよ。それでいいんですか」
挑発するように睨む。
だが、音也はきょとんとしただけで、次には笑顔になった。
「うん!いいよ、言ってみて」
微妙にショックだったと言って良いだろう。演技で良いなどと。
彼が自分に求めているのはその程度なのだろうか。
偽りなくしか生きられない彼を眩しく思っている自分が滑稽に思えてきた。腹立ちまぎれにHAYATOではなくトキヤとしての演技でセリフを作ってやる。
「音也の心の音は、荒削りで輝く…ダイヤモンドの原石のようでした。鋭く私の胸を抉り、痕をつけていく。楽しい音色なのに強くて」
愛しい、と続けるつもりだった。
台本にそう書かれているように、切り替えた口調で始めた恥ずかしい褒め言葉。
嘘にでも聴こえればいいと、怒りに任せて並べた台詞を言い切る前に、太陽のように熱い色を灯した瞳に囚われる。
「…強くて、何?」
真っ直ぐに見つめてくる相貌は、トキヤを捉えて離さない。いつもトキヤトキヤ、とそれが最早鳴き声のように連呼して、甘えては強引で、笑顔ばかりの彼にもこんな顔が出来るのだと、時々思い知らされる。
これこそ演技ではないかと思える豹変だが、演技ではないことも知っている。音也の芯の部分。
「強くて…」
無意識に反芻してからはっとする。呑まれるなど言語道断だった。
長年鍛えてきた演技力。生き抜いてきた芸能界で相手の空気にのまれて演技を見失うなど、役者としての敗北だ。
「強くて、愛しい」
食われてなるものかと、冷静な声で続けた。ぶつかる視線。役者としての攻防だった。
これは演技だ。嘘だ。けれども――
けれども、次の瞬間、ふにゃっと崩れた音也の破顔で急に張りつめた空気は消失した。
「へへっ、嬉しい」
「…!」
途端にトキヤの喉の奥を締め付けていたものも消えてしまう。そして押し寄せてくるのは羞恥心。耳まで真っ赤になってしまっているのではないかというほどの熱。
「何を喜んでいるんです、貴方が言ったんですよ、演技をしろと。だからこれは全部う…」
「うそ?演技が全部嘘だっていうなら、トキヤにとってのHAYATOも全部が嘘だった?」
言葉を飲み込ませられる。
無邪気な笑顔に潜む強さ、怖さ、憧れ。
複雑な感情に、処理が追いつかない。
「何が言いたいんです」
オーバーした思考は、自己防衛のために突き放せと結論する。いつもの冷たい物言いで自分の心を守る。そうして今まで生きてきた。
「ううん、ただ嬉しいってこと!それとね」
けれども、無邪気に笑うこの男には通じない。悔しいことに。そして
「やっぱり聞かせてよ、もう一度。お前の心の音」
とん、と黒のニット越しに心臓の位置へ触れた音也の手が、またトキヤの音を揺らすのだ。
悔しいことに。
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MUSICのメモリアルをコンプしたら出て来た、最後のメモリアルの七つの音色の音也トキヤの台詞に萌えすぎたので書いてみました、恥ずかしいことを堂々と言うんじゃありません^^^ 時々お前呼びする音也にとても弱いです。ドラム叩いてるトキヤをぜひ絵で見たかった!